前回に引き続き、『なぜ今、中小企業のDXなのか』というテーマで、「DXって金のある大企業が取り組むものじゃないの?」や「DXしないとどうなるの?」という点に、お答えしていきます。
■DXって金のある大企業が取り組むものじゃないの?
◯DXに対する大企業の姿勢
大企業のIR資料等をみると、ほぼすべての企業で、DXという言葉や、
デジタルを前提とした取り組みを記載しています。
一方、中小企業においては、DXをビジネスチャンスに取り込んだベンチャー企業等は
多数出てきておりますが、
既存事業・業界でのDX例は、トピックスとして見かけるものの、
その遅れが叫ばれています。
大企業と中小企業。DXに対する違いを生み出しているのは何でしょうか?
確かに、資金力・人材は圧倒的な違いがあると思います。
しかし、大企業のDX事例を見ると、自社ですべてのシステムを一から構築し、
一切他社と連携せずにDXしているという話は、あまり聞いたことがありません。
DXで活用されるサービスは、一から構築するシステムではなく、
初心者でも簡単に利用可能なWEBサービスを活用・カスタマイズしているケースが多いです。
しかも、それらのWEBサービスは、月額数千円や無料で利用できるものが多く、
徹底的に顧客利便性を追求しているので、非常に使いやすい仕様になっています。
したがって、資金力・人材の違いは、それが直接的にDXが進まない
最大の要因ではないといえます。
それでは、大企業と中小企業のDXに対する違いは、資金でもない・人材でもない、
何になるでしょうか?
私は、これまでの経験から、それは『経営判断』だと考えています。
大企業は、経営層が『DXしないと生き残れないと気付いている』から
早く動いているだけということです。
中小企業の経営層がダメだと言っているわけでは決してありません。
当然、中小企業の経営層も、DXに取り組んでいる企業は多数あります。
しかし、目の前の事業課題が山積している中、限られたリソース・資金で
生き残りをはかっている中小企業と比べて、
比較的目の前の事業に余裕があり、グローバル・多方面に展開している大企業だからこそ、将来を見越した変革を進められているという側面はあるかと思います。
◯DXを推進する支援者の存在
さらに、DXを推進する支援者の存在も
大企業と中小企業のDXの展開の差を大きくしています。
DXは、新しくデジタル技術を活用した変革を推し進めることなので、
DXを進めるうえで、何をどのように進めればよいかといった
DXのノウハウが社内だけでは不十分なケースが多いです。
それを解決するのがコンサルタント等のDXを推進する支援者なのですが、
・コンサルタントは、非常に高単価なので、DXに着手するための支援者を雇うだけでも多額の投資が必要になり、中小企業が手を出しにくいです。
・中小企業診断士等の士業は、DXスキルが十分に蓄積されていないケースが多く、品質が不安定です。
・システムやWEBサービスのベンダーは、自社商材を売りたがるので、DXという観点で、企業全体をどう変革すべきかではなく、個別課題へのソリューション提供に陥りがちです。
したがって、DXを推進する支援者として、大企業の多くはコンサルタントを雇ったり、自社人材中心でベンダーを活用する等により、DXを推進していますが、中小企業向けのDX推進者が少ないことも、中小企業のDXの進展を遅らせている大きな要因といえます。
■DXしないとどうなるの?
◯DXは事業構築の一種
第1回で説明した通り、DXとは、”顧客ニーズに応えるために、
デジタル技術を活用して全体最適で変革すること”ですが、
デジタルという要素がなければ、顧客ニーズに応えるために
全体最適で事業を(再)構築することと同義になります。
そう考えると、企業が創業するときに、
社会の課題や身近な課題を創業者が我が事とらえ、
その課題(=顧客ニーズ)に応えるために、事業を構築し、
ブラッシュアップしてきていることと同じです。
例えば、セブン-イレブン・ジャパンの前身である株式会社ヨークセブンが
1973年に設立されたとき、店舗都合で営業時間を決めても他店横並びなので
顧客は離れないだろうという当時の小売店の考え方から、
顧客起点で営業時間を拡大した「コンビニエンスストア」へと変革したそうです。
ほとんどの企業は、創業時に顧客ニーズに応えるために全体最適で
事業を(再)構築してきたので、
DXではそれをデジタル前提でもう一回行う取り組み
と考えてください。
◯デジタル化による顧客の変化
デジタル化による顧客行動の変化として、
購入プロセスの選択が企業から顧客自身に変わったことが挙げられます。
・デジタル化前の購入プロセス
企業からのプロモーションにより、商品を認知し、
販売員等の情報提供により評価し、購入・利用する
という企業からの働きかけを受けて、顧客が購入・利用することがゴールの
購入プロセスでした。
・デジタル化後の購入プロセス
インターネットやSNS等様々なデバイスから様々な媒体で、
顧客が自発的に情報を収集・商品を認知し、最適な手段で購入した後、
利用時には商品期待の実現に向けたカスタマーサポートの要求や
顧客による評価の情報発信を行う
という顧客主体でプロセスを選択し、一連のプロセスの評価を顧客が
発信することで次の顧客の購入プロセスに変化しています。
これは、デジタル化によって、顧客との接し方・顧客の消費の仕方がまったく
変わっていることを意味します。
これほどまでに大きな顧客の変化が急速に進んだということは、
それに対応できていない企業からは、
顧客が離れていくということが容易に想像できます。
確かに、一部の高齢者等デジタルデバイスを活用できない層はいるかも知れません。
しかし、高齢者であっても、デジタルデバイスを使いたくないわけではないです。
徳島県上勝町の葉っぱビジネスのように、高齢者であっても、
便利さや利益を認識すれば、変化します。
また、デジタルデバイスを活用できない高齢者等だけをターゲットにしても、
これから売上は落ちていき、企業の成長につながらないことは自明です。
だからこそ、もう一度、顧客起点で、今の顧客の前提となっている
デジタル技術を活用して、事業を再構築する。
それがDXに取り組まないといけない理由ではないでしょうか。
今回は、「DXしないとどうなるの?」という観点から、中小企業のDXの必要性を考えました。
次回は、「中小企業でDXしてみるなら?」というDXの進め方を説明したいと思います。
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