今回も前回に引き続き、DXによる売上拡大という切り口で
DXの支援事例を紹介します。
解説の順番としては、前回同様に
目指したい最高の顧客体験を定義した上で
具体的に直面している課題(現状と目指したい最高の顧客体験のギャップ)に対して
DXによってどういった解決ができるか解説します。
今回は、顧客満足度をデータ化し、顧客満足度を中心とした
事業体制に変革することで、売上拡大につなげた事例について紹介します。
事例を紹介する前に、事業にデータを活用することで何がいいのかをご説明します。
◯データを活用することによるメリット
企業の活動をデータ化することで、以下のようなメリットがあります。
① 判断基準を勘と経験と度胸(KKD)からデータに変えることで、
合理的で正確な意思決定が可能
これまで、周囲の経営者や取引先、従業員からの情報だけで
意思決定してしまい、思ったとおりの結果を得られなかった経験は
だれしもあると思います。
意思決定する際に、データを判断基準にすることで、
なぜそういった状況になっているのか、
今回の判断によりどのような結果を望むのか
といったことを踏まえて判断できるようになります。
そうすることで、より戦略的に事業を推進できるようになりますし、
仮に結果がうまくいかなかった場合でも、
なぜうまくいかなかったか具体的なデータを基に分析し、
次につなげることができます。
ここで忘れてはいけないことが、データといっても、
データだけを見るのではなく、
なんのデータを見るか、
そのデータからどういった示唆を得るか、
そしてどうアクションにつなげるか、
という点には、当然、
-勘(センス)
-経験(データ活用経験・現場経験)
-度胸(変革へのモチベーション)
も必要となります。
② 表面的な感覚よりも、より具体的・詳細な事実を確認し、
マーケティング施策・業務効率化・商品開発・組織設計等
すべての企業活動の観点を広げることが可能
例えば、
「◯月のX業種は、人事異動が集中する時期だから、A商品が売れやすい」
という経験則があった場合、
過去の売上データを分析することで
「◯月は、Y業種もA商品が売れている」(他顧客への拡大)
「A商品以外にもB商品も売れている」(他商品への拡大)
「X業種のC商品は◯月はあまり売れていないが、●月にはよく売れている」(時期の拡大)
「X業種の特に売上高50億円以上の企業がもっともよく売れている」(顧客の具体化)
等々、観点を大きく広げ・具体化することができます。
大企業では、すべての活動のデータ化を志向しているところもありますが、
中小企業においては、必要なところを見極めてデータ化の投資を行う
効率性の観点がより重要になります。
<DX支援事例~データを活用し売上拡大~>
顧客満足度をデータ化し、顧客満足度を中心とした事業体制に変革することで、
品質向上や利益率を向上した事例です。
◯変革前の状況
HP・チラシ、紹介からの問合せに対してサービス提供してきた企業です。
問合せを拡大するためにHPやチラシ等の広告に力をかけており、
継続利用率も高い状況でしたが、サービス提供に時間がかかるため
利益率が低いことに課題を感じられていました。
経営者の方向性としては、
人員拡大や値上げ、サービス品質の低下をせずに、
利益率を上げたいとお考えでした。
◯目指したい最高の顧客体験の定義
まず目指したい最高の顧客体験を、経営層・サービス担当者にヒアリングし、
以下のようにまとめしました。
「確かな技術と信頼をもって、
地域のお客様の健康に対するお悩みを解決することで、
お客様の人生を幸せにし、地域を活性化させる」
お客様の健康に対するお悩みの解決を事業ドメインとしたことが特徴的です。
◯課題(現状と目指したい最高の顧客体験のギャップ)
目指したい最高の顧客体験に対して、現状何が課題となっているか、
ヒアリングした結果、以下の2点が大きな課題として浮かび上がってきました。
①全体的には継続利用いただけているが、
お客様のお悩みが本当に解決できているのかわからない
②お客様の健康に対するお悩みに対して、
現在提供しているサービスが一部にとどまっている
③問合せが来た案件をそのままサービス担当者に割り当てており、
会社として顧客管理をしていないため、感覚的な顧客管理・経営となっている
◯解決策
目指したい最高の顧客体験として、
「確かな技術」「信頼」「幸せ」といった抽象的な言葉が入っていますが、
お客様が本当に満足しているのかという点については、
具体的な答えは誰ももっていませんでした。
そこで、まずはお客様の満足度をNPSとして測定し、
満足度のデータを基に、
サービス品質改善やマーケティング、利益向上策を設計する方針で、
以下のような解決策を打ちました。
<参考>NPSとは
NetPromoterScoreの略で、
「あなたはこの企業(商品・サービス)を友人や同僚に薦める可能性は、
どのくらいありますか?」
というシンプルな質問を顧客に行い、0~10の11段階で評価をしてもらいます。
測定が難しい「企業に対する満足度・信頼感」を数値化することで、
顧客体験の評価・改善に活用されます。
さらに、NPSは事業の成長率との高い相関があるので、
グローバル企業の3分の1以上が活用しているとも言われており、
日本でも採用が進んでいます。
①お客様の満足度を測定するためにサービス提供後のアンケートをメールで実施し、
お客様のお悩みをデータ化することで、NPSで満足度をデータとして測定。
②顧客データベースを作成し、
申し込み経路・サービス提供日・利用回数・満足度等のデータを蓄積。
広告費の予算や、販売促進施策の検討に活用。
③お客様のお悩みに対応したサービスメニューや物販を新たに提供。
顧客データベースを基に、ターゲットを設定(直近3か月利用なし等)し、
定期的にメールで紹介することで、手間(コスト)をかけずに顧客単価を向上。
◯さらなるデータの活用
さらにデータを活用して成果を出していくために、以下の打ち手も検討しました。
・サービス担当者別にアンケートデータを集計し、
サービス担当者の課題や強みを分析。
課題に対しては、研修等で改善をはかり、
強みに対しては、HPでサービス担当者の得意分野を紹介し、
顧客が悩みに合わせてサービス担当者を選択できる仕組み(指名制度)を導入
・顧客データベースを活用したメール配信をさらに高度化し、
お悩みに合わせた対策メール配信や、
サービス担当者ごとのブログのようなメール配信で
顧客との距離を近く感じてもらい囲い込み
・サービス担当者の評価に、アンケート結果(満足度)を活用することで、
サービス担当者の品質向上や
顧客コミュニケーションの積極化を促す人事制度を導入
・経営におけるKPIとして、NPSを設定し、毎週確認することで、
リアルタイムで改善の打ち手を実施。
NPS向上施策として、アンケートデータの顧客の悩み等を基にした
取扱商品拡大や、メール配信、人事制度等を行い、
データを基に商品開発~マーケティング~社内制度までの
経営判断を行う体制を整備
実際はこのようにきれいな話ばかりではないですが、
NPSを経営の中心に据え、NPSを向上させるためにはどうするかを、
データを活用して考え・改善する
といった支援事例を紹介しました。
事業の目的や、従業員のやりがいに直結する、
顧客の満足や信頼といった抽象的な概念を具体的にデータとして取得し、
経営の中心に据えるということは、
企業のあるべき姿として、ご理解いただきやすいかと思います。
ご紹介した事例では、NPSの取得のために、メールを活用している程度で、
ほとんどコストはかかっていません。
しかし、取得したNPSを、どうやって顧客・サービス提供・サービス担当者といった
情報と紐づけてデータ管理するかは、仕組みの設計が必要です。
データからどういった示唆を得て、KPIという形で経営指標として確認していくか、
そういった点では、ただ導入するだけではなく、
その先の活用やDXを見据えて、設計しなければ、使える仕組みにはなりません。
中小企業DXプロボノでは、豊富なDX経験のあるコンサルタントが、
目的を見据えて最適なデータの活用方法を、
データ取得の仕組みから、管理・活用施策の立案まで支援しています。
今回ご紹介した事例を踏まえ、御社でも活かせることがないか
検討のお役にたてますと幸いです。
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